要求・要件定義が100倍捗る「戦略的質問法」!依頼者の意図を正しく理解するためのコミュニケーションの技術
どの組織にも、依頼内容がざっくりしていたり、依頼の背景を説明してくれなかったりして要求を正確に捉えるのが難しい依頼者がいます。
そういう人からの依頼を、要件がハッキリしないままこちらの推測で進めれば手戻り必須。
可能な限り初期の段階で要件を具体化して最短経路で依頼を満たしたいものです。
そのために必要となるのが「戦略的質問」と呼ばれる方法論です。
戦略的質問とは、コーチングの世界で使われるコミュニケーションの手法
戦略的質問とは、目標達成を支援するコミュニケーションの体系である「コーチング」の世界で使われる方法論です。
聞きたいことを思いついたものから聞いていくのではなく、目的を持った流れに沿って質問をしていくことで、より確実に真のニーズを引き出すことができます。
質問の流れは時と場合によって変わりますが、以下のような流れがその一例です。
目次
1.セットアップ:気持ちよくコミュニケーションがとれる準備をする
1-1.依頼をかなえる意思があることと、情報が足りないことを伝える
例文
お任せください!進めるにあたって情報が足りないのでいくつか質問させていただいてもいいですか?
戦略的質問は、相手が既にもっている答えを聞くだけでなく、新たに頭を使って考えてもらう必要があるため、相手に大きな負荷がかかります。
ですから、質問を始める前に、相手がきちんと考えてくれるようにお膳立てをしなければ、会話が噛み合わないどころか、相手をいら立たせてしまい聞けるものも聞けなくなってしまいます。
このお膳立てのことをコーチングではセットアップと言います。
まずは依頼者のニーズを満たそうとする意思があることと、それにあたってもっと情報が必要なことを伝えましょう。
なんだかんだ理由をつけて断るために質問をしているのではなく、依頼者のニーズを満たすために質問をしているということをきちんと認識してもらうのです。
2.依頼の背景を確認する
2-1.事実と意見を整理する
例文
・どういうことがあったからそう感じたんですか?
・正確には、それはどういうことですか?
セットアップができたら、いよいよ具体的な質問に入ります。
要求がハッキリしない依頼者は、自分自身でも考えが整理されていない状態で依頼をしていることも多いため、一緒に考えを整理するつもりで話を進めましょう。
そのためにはまず、事実と意見を区別して認識してもらうことから始めます。
事実と意見が混同された状態で考えると、事実でないことを元に結論が形成されてしまい、間違った結論になってしまうからです。
プロジェクトがスタートしたあとに間違っていたことに気づくと、大きな手戻りが発生してしまうこともあるため、正しい事実に基づいた判断をしてもらえるよう注意しましょう。
そのためには、依頼者の考えが生まれた原因を聞いたり、「正確には」という枕詞で質問をすることで明確な根拠を引き出したりすることが有効です。
事実と意見の分解は、コミュニケーションではとても重要なポイント。
こちらの記事でもそのことについて言及していますのでお時間がある方は読んでみてください。
プロジェクトマネージャーのためのアサーティブ・コミュニケーション
2-2.価値観を確認する
例文
・どういう状態になったら目的が達成したと言えますか?
・コストを1.5倍にすることでスケジュールが3割短縮できるとしたら、コストかけますか?
事実と意見が分解できたら、次に価値観を確認します。
その人がどんなことを重視しているのか、どんな判断基準をもっているのかを知ることは、要求を明確にする手がかりになります。
相手の価値観を認識していないと、つい自分の価値観で物事を捉えてしまいますが、それでは依頼者のニーズを満たす要件を導き出すことはできません。
売上を上げる、コストを削減する、メンバーのストレスを減らす、チームの評価を上げる、残業を減らす、社内でのプレゼンスを上げるなど、依頼の元となる価値観は様々なので、相手がどのような視点でものごとを考えているのかを知りましょう。
目的が達成されたときに、依頼者自身や社内の空気、あるいは社会全体がどのような状態になっているのかというイメージを聞いてみることで、依頼の裏にある本質的な価値観を引き出すことができます。
コストやスケジュールの制約条件のうち、何を最も重視するのかも確認しておくとスムーズです。
その際、「コストと品質とスケジュールどれが最も重要ですか?」のような質問の仕方では、「全部重要に決まってるじゃん!」という答えしか返ってきません。
また、仮に「コストが重要です」という答えが返ってきたとしても、あとから「でもスケジュールは○○までに、これはマストです!」などと言われかねません。
ですから例文のように具体的な事象を仮定して、どの程度であればどういう意思決定をするのか問いかけることで、現実の価値観を確認することができます。
2-3.全体像を描く
例文
・勉強不足で申し訳ないのですが、全体的なイメージがわかないので教えていただいてもいいですか?
価値観が確認できたら、次は俯瞰的な視点で全体像を描くための質問をします。
依頼が依頼者の独りよがりになっていると、周囲との関係の中で結果がうまく出せずに、最終的に依頼者のニーズが満たせないことが多いためです。
依頼者の真のニーズを満たすために、依頼者が置かれている環境や外部の利害関係者の視点も加えて全体を俯瞰してみましょう。
全体像を俯瞰して整理するためには、SIPOCやビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークが便利であり有効です。
ここではそういったフレームワークについての詳しい説明はしませんが、機会があれば事例を踏まえて書いてみたいと思っています。
特にSIPOCについては、弊社ビジネスコーチの倉田が、ソニー株式会社を始め多くのクライアント企業の戦略構築支援で活用しており精通しています。
SIPOCを利用して戦略構築、業務プロセス改善研修なども実施しておりますので、ご興味のある方がいらっしゃいましたらお気軽にご連絡ください。
coach4pm@riso-labo.com
3.依頼内容を明確にする
話を元に戻します。
ここまでは、依頼背景を確認する質問でした。
ここからようやく、依頼内容を少しずつ明確にしていくための質問が始まります。
3-1.イメージを膨らませる
例文
・最初におっしゃられていた「○○○○」という依頼は、最終的な目的にどうつながりますか?
・最終的な目的を達成するために例えば「○○○○」というような選択肢もありそうですが他にもいくつか選択肢は考えられないでしょうか?
明確な依頼とは、目的を達成するための数ある選択肢からもっとも良いと考えられる1つを選び出した状態です。
ですから、まずは目的を達成したときのイメージを膨らませながら、色々な選択肢を作りましょう。
大きな視点で物事を捉えてイメージを膨らませる場合に適した質問の方法が、オープン・クエスチョンです。
オープン・クエスチョンとは、YES or Noで答えらえる質問ではなく、相手に自由に考えて答えてもらう質問を言います。
「AとBではどちらがいいですか?」という質問ではなく「他には選択肢はなさそうですか?」というような質問の仕方です。
オープン・クエスチョンは、相手が自ら考えて答えを探していく過程で、新たな気づきがあったり、より問題に対する理解が深まったりする効果があるため、これまで気づいていなかった様々な選択肢に気づくことができようになります。
3-2.依頼内容を具体化する
例文
・それでは、この作業で満たすべき要件は○○○○と○○○○ということで間違いありませんか?
・それでしたら、こういうプロセスで作業を進めようと思いますがよろしいですか?
そして最後は、選択肢の中からやるべき作業を決定し、作業内容を明確にする質問です。
成果物と依頼者の期待がズレないように、可能な限り具体的に(できれば仕様レベルで)話を詰めましょう。
今後の作業予定や、依頼者側の確認フローなど、プロセスも確認しておけばその後の流れがスムーズになります。
いやいや、こんな長々と質問なんてさせてもらえないよ
そう思ったあなた、正解です!笑
これほどしっかりと質疑応答ができることは、現場ではなかなか少ないかもしれません。
きちんとセットアップしたとしても、長々と質問をしているうちに忙しい依頼者はだんだんイラ立ってくることもよくあります。
相手をいら立たせないような会話力や、多少のプレッシャーは気にしないスルー力など、戦略的質問を成功させるためには色々な要因があり、トレーニングと慣れが必要です。
ですから、最初はとにかくこれだけ言えれば合格。
「お任せください!進めるにあたって情報が足りないのでいくつか質問させていただいてもいいですか?」
要求が明確でないと思ったら、これだけでも即座に言いましょう。
相手に情報が足りないことを認識してもらうところさえできれば、あとは自然に話が進んでいきます。
重要なのは、「答えてもらうのが当たり前」という態度で臨むのではなく、「忙しいのに時間をとって考えてくれてありがとう」という気持ちで質問をすること。
また、一方的に質問するのではなく、「疑問を共有する」気持ちでコミュニケーションをとってみることが重要です。
相手の言葉を否定したり、自分がもっている答えに誘導してしまったりせずに、常に笑顔で質問をし続ければ、相手もきっと真摯に対応してくれます。
そして要件は明確になり、しっかりと合意も形成できているので、スムーズにプロジェクトを完遂することができます。
回答はきちんと議事録に残して、お互いに責任をもとう
最後に、話した内容はきちんと議事録に残して確認してもらうことを忘れないよう注意してください。
記録に残すことで、「そんなことを言った覚えはない」といったちゃぶ台返しや、言った言わないの水掛け論になることを防げます。
とはいえ、どれだけ依頼内容を明確にしたとしても、状況により判断は変わるものです。
議事録に残っているからと変更をかたくなに拒むのは建設的な態度とはいえないでしょう。
プロジェクト開始時の要求に忠実な成果物が納品できたとしても、それがすでに役に立たない状況になっていたら何の意味もありません。
依頼内容が後から変わりそうなときは、それによってスコープ、タイム、コストがどのように変化するのかを説明した上で判断を仰ぎ、双方で合意をする必要があります。
そのように進めれば、変更に伴うリソースの追加や納期変更といった要望も理解されやすくなるでしょう。
おわりに
突然依頼があったときにもあわてないように、日ごろから自分なりの質問の流れをイメージトレーニングしておきましょう!
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