【4つの原因別】上司の言うことが二転三転して手戻りが多い!モチベーション下がるわ!というディレクター向け方法論
プロジェクトに関する質問に答えてみるシリーズの第2回。
▼第1回の内容はこちら▼
ディレクション誰やるの?ディレクション責任が不明確なプロジェクトが200%炎上する理由と対策
さて2回目の今回は、某人材系ポータルサイトで、社内開発チームのディレクターをしているHさんからの質問です。
言うことがコロコロ変わる上司に悩まされています。既に制作は進んでいるのに根本のコンセプトが変更になったり、一度OKが出たのに次の日には「やっぱりこうしてくれない?」と言われたりして、手戻りが多くすごくモチベーションが下がります。どうしたら手戻りをなくせるのでしょうか?
手戻りがモチベーションを下げることは行動経済学で証明されている
依頼者である上司やクライアントの指示が朝令暮改、頭の痛い悩みです。
社内プロジェクトでも受託プロジェクトでもよくある問題ですが、受発注契約で線引きされておらず、部下側の拒否権が弱い分、社内プロジェクトで大きくなりやすい問題です。
受託プロジェクトの場合は「中にはそういうクライアントもいるよねー」というワンオブゼムの話ですが、社内プロジェクトの場合は直属の上司からは逃げられませんのでストレスレベルは日に日に高くなっていくはずです。
手戻りがモチベーションを下げることは行動経済学でも証明されています。
デューク大学で心理学や行動経済学を研究しているダン・アリエリー教授の「シジフォス実験」と呼ばれる実験が有名です。
レゴブロックを組み立てるという簡単な作業をAB2つのグループにやってもらいます。
Aグループは出来上がったものを目の前に並べていき、Bグループは出来上がったものをバラしてまた同じものを組み立てるという実験をしたところ、作業そのものはまったく同じなのにもかかわらず、圧倒的にAグループのモチベーションが高く維持されるという結果が出ました。
非常に抽象化された実験内容のため、この実験結果は当然のことのように思えますが、プロジェクトの手戻りによるモチベーション低下は、これと同じ現象が起こっていると言えます。
詳しくは以下の動画をご覧ください。
シジフォス実験以外にも、200人のエンジニアのモチベーションを一瞬でなくさせたある企業の話など、示唆に富む話がたくさんあります。
TED TALK:仕事のやりがいとは何か
手戻りが発生する4つの代表的な原因
ここで問題の本質に目を向けてみると、実は「手戻り」そのものではなく「モチベーションの低下」が問題であることがわかります。
ですから、手戻りをなくす方法と、手戻りが発生した場合にモチベーションを低下させない方法という2つの観点を念頭に置いて話を進めます。
手戻りが発生してしまう代表的な原因は以下の4つです。
手戻りの原因
- 前提となる状況の変化
- 上司が手戻りの害をあまり理解していない
- 上司が作業プロセスを理解していない
- 新たなステークホルダーの出現
それでは、1つずつ対策を見てみましょう。
1.前提条件の変化は防げない
いきなり諦めモードかよと言われてしまいそうですが、これはプロジェクトチームでコントロールできるものではないため、残念ながら防ぐことはできません。
環境変化が激しいビジネスシーンでは、すぐに前提が変わってしまうことも少なくありません。
そんなときは迅速に判断を改めてやり直さなければ時代遅れになってしまいますから、手戻りを恐れずに判断の変更をすべきです。
ですからこの場合は、手戻りを防ごうとするのではなく、手戻りが発生してもモチベーションが下がらないようにすることを考えましょう。
そのために必要なのは、「あらかじめ手戻りを想定しておく」ということです。
当たり前にも聞こえますが、手戻りが発生してからそれに対する対応を考えるのではなく、あらかじめ手戻りを「発生し得るリスク」として認識し、発生した場合の対応についてメンバーと共有しておくことが非常に効果的です。
「きっとうまく行くだろう、あとちょっとでリリースだ・・・・・と思ってたら手戻ったーーーー!!!!」というのはモチベーションがダダ下がります。
しかし、 「このタイミングで手戻りが発生するかもしれないから、そういう場合にあわてないように心の準備をしておこう」というだけで、実際にそれが発生した場合のモチベーション低下をかなり軽減できます。
また、心の準備だけでなく、あらかじめ手戻りが発生した際にそなえるスケジュールバッファ、コストバッファを用意しておけばもう怖いものはありません。
2.上司に手戻りがプロジェクトに与える影響を理解してもらうには
上司は「ここやっぱりこうしておいてー」と気軽に言うけれど、「やってるほうの身にもなってみろゴルァァァァァ(言えないけどorz)」というやつです。
このタイプの上司は、忙しいことを理由に確認が雑だったり、返事が話半分で言ったことを忘れてしまったり、あるいは検討もそこそこに見切り発車をしてしまったりということが頻繁に発生します。
その対策は・・・、この記事を共有して読んでもらうことです(笑)
そして手戻りがあるたびに、「また手戻りですよーーーモチベーション下がるんですって!」とにこやかに言い続けていくしかありません。
3.上司が他分野の出身である場合、細かいWBSで進捗の差異をこまめに報告しよう
マーケティング系や営業系で成果を上げてきた人が、制作・開発プロジェクトの責任者に配置されるケースがあります。
この場合、上司が制作・開発プロセスをよくわかっていないために悪気なく手戻りを発生させてしまうケースがあります。
「あ、ごめん、それってもっと前に決めなきゃいけなかった?ちゃんと検討してなかったわ><」 というやつです。
上司は他の分野のプロフェッショナルですから、「デキない上司だ・・・最悪や・・・」と嘆いていても仕方ありません。
上司をマーケティングや営業の観点を現場に取り入れてくれる貴重なビジネスパートナーという視点で見て、制作・開発に関してはあなたがリーダーのつもりで上司をリードしてあげる必要があります。
このケースでは、かなり粒度の細かいWBSを作成し、進捗の差異を頻繁に報告するのがお勧めです。
手戻りが発生するとその差異が一気に広がるため、上司も「良くない判断をしてしまったのだな」と反省できる材料になり、次第にプロセスを理解して手戻りが減ってきます。
4.ステークホルダー登録簿を作成して、早期に関係者を洗い出す
当初は想定していなかった新たな関係者が出てきて、その人の影響によって方針が変わり手戻ってしまうこともあります。
「上司!そこ制御してよ!」と言いたくなる気持ちもわかりますが、なかなかそうも言えないのが実情です。
これは、プロジェクトの初期段階でステークホルダーの洗い出しができていないことが原因です。
ステークホルダーは増えれば増えるほど調整が増えて面倒なので、なるべくこじんまりとプロジェクトを進めようとしてしまいがちですが、そうやって進めた結果あとからひっくり返されるという経験が皆さんにも一度はあるのではないでしょうか。
例えば、あとから営業部門がまったく別のことを言い出したり、広報部門がレギュレーションについてNGを出してきたり、法務部門が各種表現についてチェックさせてくれと言ってきたり、、、。
そういった状況にならないようにするためには、あらかじめ「ステークホルダー登録簿」を作成するのがお勧めです。
ステークホルダー登録簿のサンプルフォーマットを以下に用意しましたのでよろしければご利用ください。
※今後のさらに役に立つ情報提供のために、簡単なアンケートにご協力いただけますと幸いです。なお以前アンケートにお答えいただいた方は、直接メールいただければお送りします
このファイルを参考に、プロジェクトに影響しそうな人を最初に洗い出してみてください。 ポイントは、以下の3つです。
- ステークホルダーは「個人名」でリストアップ
- 各ステークホルダーがどういった役割の人なのかを確認
- 発言力や影響度を検討
発言力や影響度の高い人には、直接あるいは上司を通して初期段階からコミュニケーションをとっていくことで、後からひっくり返るリスクはかなり軽減できます。
コミュニケーションは、必ずしもオフィシャルなものでなくても構いません。
非公式な飲み会や趣味の付き合いなども含めて関係性を築いておくことが重要です。
こちらの記事も是非参考にしてみてください。
プロジェクトの改善に魔法の杖はない
手戻りを軽減するヒントは得られたでしょうか?
どの対策も、関係者とコミュニケーションをとりながらプロジェクトの進め方を改善していく必要があるため、一朝一夕にはいかずモヤモヤすることもあるかもしれません。
しかしプロジェクトの改善に即効性のある魔法の杖はありません。
すぐにうまくいかなくても何度も言い続ける、少しずつ取り入れて風土を作っていくような心構えで取り組んでいきましょう!